INTERVIEW

Interview #8
古代文字アーティスト 紗(すず)インタビュー。「文字が持つストーリーは私たちの日常にあるということを表現したい」
古代文字との衝撃的な出会いから、持ち前の行動力で、会社員を卒業し古代文字アーティストになること決意。活動スタートからわずか9ヶ月で数々のグループ展、企画展に参加し個展も開催。ショップのロゴ制作や、ウェディングアイテム制作など幅広く活躍の場を展開しています。表現したい世界を迷うことなくクリエイティブにそしてアグレッシブに取り組む姿勢はとてもエネルギッシュ。そして、古代文字を描いている時の、紗さんの姿はアーティストそのもの。文字がビジュアルとなって伝えるところの背景にあるストーリーは、ロマンを掻き立てるようなドラマチックな世界が隠されています。今回は、紗さんに古代文字の魅力とご自身がアートを通して伝えたいことについてインタビューしました。
紗さんが今されているお仕事の内容を教えていただけますか?
古代文字アーティスト集団天遊組に所属しつつ、自身での創作の幅を広げるためSUZU-MOJIとして活動しています。甲骨文字をベースに文字に込められたストーリーを日々の日常と重ね合わせながら自分なりに理解して、古代文字アートとして顕在化させています。また、お客様のご依頼に合わせて、主にお子さんの命名書やロゴデザイン、最近では傘の柄のデザインなども制作しています。
甲骨文字って意外と知らない方多いかと思いますが、いつ頃に使われていた文字なのでしょうか?
今から約3300年前、中国の殷の時代に亀の甲羅の裏に刻まれていた文字でした。この甲骨文字のことを古代文字と称して制作を行なっています。
紗さんは、どんな風に古代文字と出会ったのですか?
今の師匠である天遊とプライベートで知り合ったことが最初のきっかけです。それで、古代文字アーティスト集団天遊組の展示会にお誘いいただきそこで初めて古代文字と出会いました。最初は、え!これが文字なの?と、文字として捉えられないので驚きました。そして、実は文字の一つ一つにストーリーがあってその詳細を聞かされたんです。そこから改めて作品を見ると、その背景にあるストーリーがまるで絵のように見えてきたんです。漢字とは違う文字と絵の両方の魅力があるものだと感動し、私自身も描きたくなりました。
衝撃的な出会いとなったのですね。なかなか心が動いても本格的に描くことを生業にしようと決意するには勇気がいると思うのですが、紗さんは、古代文字にリンクするような描く経験があったのですか?
ここまで行動できた背景には、小学生から中学卒業まで続けていた書道があったからかもしれません。趣味の習い事の範囲でしたが、筆を持って書くことに対して抵抗がなく、楽しみながら教室に通っていた記憶があります。書道教室では、先生のお手本を見て決められた紙の中でいかに綺麗に書けるかを意識して取り組んでいましたね。今描いている古代文字アートとは真逆の世界ですが、この経験のおかげで古代文字の世界にも足を踏み入れやすかったのと、あとは、思い立ったら吉日!な体質が衝撃的な出会いから猛スピードでこの世界に飛び込めたのだと思います。
その後、独立を決意されたきっかけは?
私はもともと照明メーカーの社員として働いていました。古代文字は最初趣味として描いていたのですが、文字が持つ物語は今の私たちに通ずる部分があり、より多くの人に伝えていきたいという思いがだんだん強くなっていきました。そして、文字の物語を現代の日常に落とし込んで、私なりに私らしい表現で発信していけるかたちを模索していきたいと思いました。そこから、会社を退職することを決意して古代文字アーティストとしての道を歩み始めました。私自身この3年間、本当に文字に気持ちを救われたことがたくさんありました。私と同じように多くの人たちが、古代文字の背景にあるストーリーを知って感じてもらいたい。そしてそれをきっかけに、今存在しているものが、ずっと繋がっていることを知って勇気を持てたり、心が豊かになるきっかけになってほしいという願いを込めて日々取り組んでいます。
紗さんを虜にした、古代文字の魅力はなんでしょうか?
「文字と絵」両面を持っていることだと思います。
当時、今から3300年前は、文章としての文字というよりも見た様子や情景をイラストとして起こしていました。そのため、今の漢字のような成立したかたちではなく、絵に近いかたちで存在していました。古代文字を研究されていた白川静先生の文字の解釈を知ることで、当時の様子や宗教観などがイメージしやすいものになっています。絵に文字としてのパワーが加わることで、最強のメッセージ性のあるものに仕上がっていることに、とてもワクワクしてしまいます。
紗さんが、「古代文字アート」を通して伝えたい思いは?
私は古代文字アートを通して、文字が持つストーリーは私たちの日常にあるということを届けていきたいです。そして、文字のストーリーから見える世界はとても広く、今見えているものだけではないということを作品から感じてもらえるものを表現、発信していきたいです。通常、古代文字や漢字などは、墨文字になる書としての表現が多いですが、文字がより身近に感じられる表現にチャレンジしていきたいと思っています。
紗さんの今後の夢は?
世の中に古代文字アートをファッションとして知ってもらうことです。ひとつのジャンルとして老若男女に認知されるものを作っていきたいです。だいぶスケールが大きいかな…(人生をかけたプロジェクトになりそう)
古代文字アートを始めた際、変な団体に入ったんじゃないかと茶化されることがありました。そんなひどいことを言う前に私が描いた作品を観に展示会に来て欲しいと話したところ、来てくれたみんながこういうジャンルもあるのかと古代文字の世界に引き込まれていったんです。見る楽しみだけでなく、文字に含まれるストーリーやメッセージ性に好奇心を持たれる方が多かったようです。展示会を通して、国内外の老若男女の方に接した際に、より多くの人に認知してもらえたら、文章としての文字ではない世界がみんなの中に生まれると感じました。
とても無邪気な雰囲気が漂っている紗さんですが、小さい頃はどんなお子さんでしたか?
とにかく活発で明るい子供で、人見知りもなかったのでいろんな人とすぐ仲良くなって遊んでいたようです。活発過ぎて、あだ名がドクタースランプアラレちゃんと名付けられるほど動きまわっていたらしく…笑おまけに好奇心旺盛だったので、一度やりたいと思ったことは全力で取り組むタイプでした。
「やらないよりやって後悔だ!」と父に言われたこともあり好きなことをたくさんさせてもらいました。向き合ってくれた両親にはとても感謝しています。そのおかげで、今、古代文字の世界にも出会うことができました。
今までで一番ワクワクした経験は?
ワクワクした経験は、いくつかありますが…一番は、学生時代に行った自転車旅です。大学生の時に、自転車でキャンプツーリングをするサークルに入っていました。大学1年の夏休み、サークル入りたての頃に東京から北海道まで(秋田からフェリーで北海道入りするかたち)野宿をしながら、仲間たちと旅をした経験が忘れられないです。体力もそんなにあるほうではありませんでしたが、毎日目的地に行く過程で出会う人や景色が今まで見てきたものとは感じ方が異なり、家に帰宅するまでずっとワクワクしていました。旅の中で感じた景色や匂い、物の動きが今の作風に生かされている気がします。やはり制作している時にイメージされる映像は、今まで見てきたものが一番に頭に浮かびます。
これからどんな活躍をされたいですか?さらにそこにある思いなども教えてください。
今後は墨文字での書は描きつつ、個人の制作の中では、「日常で文字を身に纏う」ことをコンセプトに傘や洋服など、布地に落とし込んでいきたいと考えています。また、プロダクトとしての制作以外に企業様が掲げている理念などブランドストーリーを古代文字のストーリーとリンクさせて、ご提案できたら、会社の方向性がまた違うかたちで見えてくるのではないかと感じています。この先、更にデジタル化されていき、書くという行為が遠ざかっていく時代でこそ、文字が持つ歴史、ストーリーの魅力を表現していきたいと思っています。
最後に、紗さん大切にされていることを教えてください。
できる限り外に出て人に会うことですね。世代問わず、いろいろな人とお話ししたいこともあり居酒屋に飲みに行ったり、SNSで見つけた展示会に足を運んで作家さんとお話ししたりしています。自分だけの考えでは、どうしても視野が狭くなってしまうので、人に会って幅を広げるようにしています。また、日常の中で良いと感じる風景や光を撮ることを大切にしています。制作の時に自分の中の創造の引き出しを増やすために心がけています。
これから母となりさらに、表現の幅がダイナミックに広がっていきそうな紗さん。
私も古代文字アートに魅了され、自身が今後活動するのにキーワードとしたい文字をとても素敵な古代文字&ロゴにしていただきました。その時の自分の思いを唯一無二となる文字として描いてもらい、それが日常で目にする場所にいつも在る。アートと歴史と共に生活しているようなそんな空間をも提供してもらったようです。紗さんだからこそ創り出せるものがこれからどんな風に生まれるのかとても楽しみです。
展示実績:
#またたき @おもいで薬局にて展示(2021.8)
IKEBUKURO Living LoopにSUZU-MOJIとして出展(2021.11)
個展 #またたき 私のひかり @ハタメキにて展示(2021.12)
深川×古代文字アート(フカフォトとのコラボ展示)(2022.1)
個展 YADORI @NICOにて展示(2022.3)
Instagram: @suzumoji_gallery